IR推進法が成立した4年前
国会で議論されなければならない政治課題は多々あるが、中でもIR法案に注目が集まっている。
訪日外国人観光客が急増し、観光産業の発展を促すためにも腰を据えた観光政策は必要で、そうした観点からIR整備の必要性が説かれている。
IRは「統合型リゾート」を意味する用語で “カジノ”だけを意味するものではない。
しかし、IRはカジノ解禁を含むことが前提になっているため、その是非を含めてカジノが主に論じられることは仕方がないと言える。
金銭を賭したギャンブル場は、競馬・競輪・競艇・オートレースなど、国が公認した公営競技だけで認められている。
これらに加え、カジノに関しても2016年12月にIR推進法が成立して開設への道筋がつけられたのである。
IR推進法が成立する以前から、さまざまな自治体がカジノ誘致に手をあげていた。
カジノが開設されれば、多くの外国人観光客が街を訪れるため、経済効果が見込める。
また、カジノ建設に関連した建設業や宿泊業、IRに併設される劇場などでのエンターテインメントや飲食業なども活性化することが容易に想像できる。
そのほか、周辺のレストランなどもにぎわうことが想定でき、アクセスするための鉄道・バスといった公共交通インフラの整備も進むことが考えられる。
地方の都市は人口減少・少子高齢化が顕著になり、過疎化が進んでいる。
日本経済全体も停滞気味である。
地域を活性化する起爆剤として、めぼしい産業がない市町村が停滞を打破するためにカジノを誘致しようと動くことは不自然な話ではない。
各地方自治体がカジノ誘致に名乗りをあげる中で、地元住民からの反発の声も当然の如く上がっている
カジノ誘致をにおわせる小池都知事
しかしIRの建前では、あくまでも外国人観光客をターゲットにしている。
そのため、政財界では外国人観光客が足を向けにくい地方都市よりも、東京・大阪といった大都市圏に開設するべきとの空気が支配的になっているのである。
石原慎太郎都知事(当時)は、まだIR議論が本格化する前から東京都の調査費として年間1000万円の予算をつけていた。
そして、2002(平成14)年には都庁の展望室でカジノのプレイベントを実施している。
石原都知事の旗振りもあり、東京都はお台場の近くにカジノ用地を確保。
カジノ開設の急先鋒と目されていた。東京都のカジノ開設の方針は、後任の猪瀬直樹都知事にも引き継がれる事となった。
しかし、2014年に就任した舛添要一都知事は、カジノ開設に消極的な姿勢に転じた。
2016年の就任当初、小池百合子都知事はカジノに言及することはほとんどありませんでした。
2019年頃から、ようやくカジノに関する発言も出てきています。小池都知事は、誘致をにおわせる発言をしているのである。
東京圏では、ほかに神奈川県横浜市や千葉県千葉市などがカジノ開設に意欲を見せている。
横浜市の林文子市長はカジノに対して慎重な姿勢を取っていたが、2019年になって方針を変更している。
一方、当初から一貫して誘致に力を入れているのが大阪市である。
今般、関西国際空港から入出国する外国人観光客は増えている。
関西に足を運ぶ外国人観光客には京都・奈良といった歴史ある都市が人気になっているが、大阪の人気も高く、そのために大阪でも外国人観光客による経済活性化への期待が大きくなっている。
また、2025年には大阪万博の開催が決まり、今後も外国人観光客の増加が見込める。
そうしたことから、大阪ではカジノによる経済効果を期待して開設を強く働きかけているのである。
カジノ開設で治安悪化の懸念されている。
カジノを含むIR議論は粛々と進められていたが、2019年12月に風雲急を告げる事態が発生。
内閣府副大臣でIRを担当していた秋元司議員が、中国企業からIRへの便宜を受けていたことで外為法・収賄容疑で逮捕されたのである。
現役の国会議員が逮捕されるという衝撃的なニュースを受け、IR誘致を目指していた千葉市はIR誘致の断念を表明。
IR撤退の動きは、ほかの自治体にも広がりを見せている。
その一方、再び招致レースに加わった東京都はカジノ開設への意欲を絶やしていない。
2020年には東京五輪が開催されるため、これまで以上に外国人観光客が東京を訪れることが予測される。
そうした事情を踏まえれば、東京都は五輪開催までにカジノを開設しておきたかったと考えていたはずである。
今国会でIR議論も本格化すると予想されるが、現職国会議員の逮捕もあって議論に影響が出ることは間違いない。
仮に熟議の末に東京にカジノが開設されることが決まっても、五輪開催までには間に合わない。
それだけに、早急に答えを出すことに意味はないと言える。
カジノが開設されれば、付近の住民は治安や街の美化が気になる。
観光振興や経済活性化という観点だけではなく、多方面から腰を据えた議論が望まれている。
[海外]英国のギャンブル依存症問題
賭博サイト、カジノ・オルグによると、ギャンブル市場は急拡大。
ギャンブル大国ランキングは首位のマカオを除くと、米国、英国、オーストラリア、カナダとアングロサクソン系の国が続いている現状である。
筆者が暮らす英国では小さな町にも、政権崩壊や英王室まで賭けの対象にしてしまうブックメーカー(賭け屋)やルーレットなどの賭博ゲーム機がある。
2005年に規制緩和した際、設けられた「賭博委員会」によると、英国のギャンブル収益は総額138億ポンド(2兆148億円)。
内訳は次の通りになっている。
- 賭け屋8531店、収益33億5400万ポンド
- ナショナル・ロッテリー(国営宝くじ)、同29億7900万ポンド
- カジノ146店、同11億6400万ポンド
- ビンゴ583店、同6億8700万ポンド
- 大人向けゲーム機店1476店、同4億1400万ポンド
「どんな条件であれ、カジノ事業者からお客が借金できる仕組みは間違い。しかし、カジノは最悪のギャンブルではありません。従業員が、お客が問題を抱えていないか、怒っていないか見張っているからです」
危機は目の前にある
安倍首相がIR実施法成立を急いだ背景に、米カジノ業界に近いトランプ米政権の影を指摘する報道もある。
厚生労働省は昨年9月、ギャンブル依存症の疑いがある人は全国に70万人との推計を発表。
生涯のうち一度でも依存症だった疑いのある人は320万人。
カジノの功罪を論じる前に日本は目の前のギャンブル依存症対策を進めるべきである。
と考えられている。